大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)406号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大橋茹、同斎藤寿の上告趣意は末尾に添付した別紙記載の通りである。

第一点について。

(イ)所論公判調書を調べて見るに、検察官事務取扱検察事務官は被告人の販売始末書一通の取調を請求し、証拠調終了後、裁判所にこれを提出した旨の記載はあるが、川島ふみの販売始末書の取調を請求した旨の記載のないことは、論旨主張の通りである。しかし、本件記録には被告人の販売始末書を発見できず川島ふみの販売始末書が綴りこまれているのである。そして第一審の認定した事実によれば被告人は右川島ふみから衣料品を買受けたのであるから、買受人たる被告人が販売始末書を提出するということは通常あり得ないことであるし、販売人たる川島ふみの販売始末書は記録に綴りこまれているが、被告人の販賣始末書はこれに綴りこまれていないこと等に鑑みれば、被告人の販売始末書とある右川島ふみの販売始末書の誤記と認めるのを相当とする。従って、原判決は所論の如き虚無の証拠によって事実を認定した違法あるものではないばかりでなく、論旨は刑訴法第四〇五条に当らないから上告適法の理由とならないし、また刑訴法第四一一条を適用すべきものとも認められない。

(ロ)所論昭和一八年(れ)第七七八号事件の判決は裁判所構成法による、東京控訴院が上告審として為した判例であって刑訴法第四〇五条第二号、第三号に掲げている判例に当らないから論旨は上告適法の理由とならない(昭和二四年新(れ)第四九九号、同二五年五月一二日第二小法廷判決参照)。

なお、本件について第一審判決は適用法令として臨時物資需給調整法第一条、第四条、衣料品配給規則第五条を掲げているが、同規則にいわゆる衣料品とは、その第一条第一項に基いて昭和二二年九月一〇日商工省告示第五八号によって指定されているのであるから、臨時物資需給調整法の罰則を適用するには、衣料品配給規則第五条のほかに右告示第五八号を掲げなければならない。けだし衣料品配給規則第五条は右告示によって、その内容が具備するからである。従って原判決が右告示第五八号の適用をしなかった第一審判決を維持したことは法令の違反あるものというべきであるが、被告人が買いうけた判示紺織木綿は右商工省告示の指定する衣料品に該当することが明白である以上、右告示を遺脱して処断したとしても刑の量定その他において右告示を適用した場合と異る処はないから前示の法令違反があるとしても刑訴法第四一一条第一号により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

よって刑訴法第四〇八条により主文の通り判決する。

この裁判は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例